エネルギーエコシステム学分野

我々の目指すこと(詳細)

地球上には陸と海に生き物、すなわちバイオマスが存在していますが、海では食物連鎖が高速で回っているため、バイオマス資源の蓄積はごくわずかです。これに対し、陸のバイオマス(その90%以上は森林生態系に存在)は、大気中の炭素の約10分の1を毎年光合成で取り込んでいます。また、バイオマスの一部が枯死して土壌で分解・無機化することで、同じ量の炭素がCO2として大気に放出されています。このように多量のCO2(炭素)が大気と森林生態系の間で循環していることは、エネルギー・環境問題を考える上で非常に大切な視点です。

炭素の循環とともに太陽エネルギーが固定されていることも忘れてはいけません。その固定量は一年間で世界の一次エネルギー需要の4~5倍に相当します。バイオマスにはそれほどの大きなポテンシャルがあるということです。また、バイオマスの利用は“カーボンニュートラル”と言われています。この理由は、バイオマスを利用することで発生するCO2は再度バイオマスの生産に用いられ循環系に取り込まれることから、正味として大気中にCO2を放出したことにならないからです。

現在、世界で利用されているバイオマスエネルギーは、一次エネルギー需要の10%程度(意外と使われている)であり、これは上述のポテンシャルの1/40~1/50に相当します。例えば、これを2倍にすることができれば、エネルギー需要の20%をバイオマスエネルギーで賄えることになります。地球上での炭素循環系を乱すことなく、如何に利用できる割合を増やすかがポイントとなります。しかし、現在使われているバイオマスの多くは実は発展途上国での薪利用であり、先進国ではほとんど利用できていないのが問題です。バイオマスは紙、建材、家具、食品などとして幅広く利用されておりそれらの廃棄量は膨大ですが、これらはエネルギーとして使いづらいことから、先進国では燃料として認識されていません。

このような状況において重要になってくるのが、バイオマスの変換技術開発です。先進国において廃棄バイオマスを廃棄物ではなくエネルギー資源として利用するためには、我々が普段使っているように、ガソリン・ディーゼルエンジンに利用できる液体燃料、または電気などに変えてやることが重要です。そのための技術が十分には出来上っていないのです。当研究室ではこのような技術に向けた基礎から応用に至る幅広い研究を進めています。

もう一つ問題になってくるのが、食糧との競合です。トウモロコシや糖蜜からのバイオエタノール生産では、デンプンや砂糖が原料として利用されることから食糧との競合が起こり、食糧価格の高騰などの問題が起こります。実はこれらの資源は地球上にはわずかにしかなく、バイオマス資源の大部分を占めているものは、木、枝、茎などの我々が食べることのできない部分なのです。真の意味でバイオマスを効率的に利用しようと思えば、これらの食べることのできない資源をうまく利用しなければなりません。化学成分の視点からは、セルロース、ヘミセルロースとリグニンがその利用の対象となります。これらの利用法がまだ完成していないのです。ここでは“自然との知恵比べ”になります。木、枝、茎はできるだけ「軽く強く」そして「他生物からの攻撃を受けない」ように進化してきました。これらの特性はバイオマス変換を進める上で大きな障壁となっています。

若い人の力が必要です。これらの課題にチャレンジし、太陽エネルギーと生態系で成り立つ真に循環型の社会を創り上げ、地球温暖化から我々の社会を救いませんか。